星を継ぐもの【あらすじネタバレ感想】月面で発見された死体は、5万年前に死んでいた!?

あらすじ

J・P・ホーガンがこの一作をもって現代ハードSFの巨星となった傑作長編!

月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。

すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行なわれた結果、驚くべき事実が明らかになった。

死体はどの月面基地の所属でもなく、世界のいかなる人間でもない。ほとんど現代人と同じ生物であるにもかかわらず、5万年以上も前に死んでいたのだ。

謎は謎を呼び、一つの疑問が解決すると、何倍もの疑問が生まれてくる。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見されたが……。

(創元社より)

感想・レビュー

第12回星雲賞〈海外部門〉受賞

本作はホーガン氏にとってデビュー作であり、SF界を代表する作品の一つにもなりました。

個人的にもジェイムズ・P・ホーガン作品は「仮想空間計画」以来で、かなりお久しぶりですが、実は本作が1番読みたかった作品です。

ではまずいつもの読了後の所感としては、いや凄すぎる、凄すぎましたね。

本当にどう言語化すればいいのか難しい面白さで、これは感想が難しい作品だなぁ、と読みながら感じていました。

稀にこういう作品に出会うのですが、著者の発想力の高さ、ユニークさを纏めきる集中力にはもう、ひたすら感心するしかなかったです。

物語は2028年頃の未来を描いており(※執筆年代は1970年代後半辺り)、人類が月で旅行し、半年ばかりで木星に到達できるような宇宙技術を獲得した世界観という感じ。

昔モーニングで連載していた「プラネテス」という漫画がありましたが、本作の影響をかなり受けていたんだなぁと読み終えてから感じました。

話を戻しまして、原子物理学者である主人公の「ヴィクター・ハント」のもとに、月面調査隊が死体を発見したとの報告がありました。

しかもなんとそれが驚きの【5万年以上も前の死体】だという…

ここで読者は「は?」と思うんですよね。笑

5万年以上も前に月に行く程の科学技術文明があったとでもいうのか?と。

5万年以上前の人類といえば、ちょうどネアンデルタール人や、クロマニヨン人、ホモ・サピエンス(現生人類)などが混同していそうな時期なのですかね?

ちょっと気になって色々と調べて見たのですが、正確にはもうホモ・サピエンスがネアンデルタール人を征服?し、地上世界で覇権を握り、拡散しているのが濃厚なんですかね。

本作はそもそもかなり昔に書かれているので、多少の人類史などのズレはあるのかもしれません。

まぁここの曖昧さも物語の核心にもなってきますので、先に進みます。

ではそんな科学力が当時にあったらとんでもないことではありますが、逆に「それだけの高度文明があったのにも関わらず、全く痕跡が残っていない」というのはどういうことなのか。

とても魅力的でミステリアスな謎が浮かび上がります。

さっそく月面で見つかった死体とその他、周囲に残されていた遺品、装備品なども含め、検証が始まりました。

世界から無数の科学者がヒューストンにやってきて、生物学、言語学、物理学など、様々な観点から科学的議論が繰り広げられました。

言語学の解読が進んでからは、かなりのスピードで様々なことが分かっていきました。

死体(仮名:チャーリー)のメモ、手記によると、ミネルヴァから月まで2日で行けた、ということや、月から放射ビームを正確に当てられた、など、かなり高度すぎる科学的文明などが書かれていました。

徐々に解明されていく謎から、仮説と検証を繰り返し、進んでは止まり、また進んでは止まるという、まさに科学者らしい展開が続きます。

さらに木星の衛星であるガニメデ探査で、ガニメアンと呼ばれる知的生命体である巨人の死骸(推定2500年前)も発見されたり、物語の謎は二転三転と積み上がっていきます。

そこでまず分かったことがあるので纏めておきます。

  • かつてミネルヴァという太陽系の惑星が存在していたのでは?
  • 死体(仮名チャーリー)はそのミネルヴァに住んでいたルナリアンだった可能性がある
  • かつて月面で壮絶な核戦争?が行われていた可能性がある
  • ガニメアン(巨人)とルナリアンはミネルヴァに住んでいた?(生存時期にズレがあり矛盾する)
  • 月は地球の衛星であり、ミネルヴァからかなり離れていたのではないか?
  • 現生人類(祖先)は、ガニメアン(巨人)の手によって、ミネルヴァに運ばれ、そこで進化したのではないか?

などなど、謎は他にもあり、纏めるのが下手で申し訳ないのですが、大雑把に纏めるとこんな感じです。

そのように謎が謎を呼び、行き詰まりを見せる中、ハントに木星探査の依頼が舞い込み、それをハントは承諾しました。

一度、月に行き、そこから木星の衛星の一つであるガニメデへ。

ガニメデでもハントは謎に苦しみ、一度、船外に出ます。大気は、アンモニアなどの人類にとって有毒ガスなどしか存在しませんが、そこで無限の宇宙と対峙するシーンは、SFならではのものがありました。

そこで、ハントは火山?活動ですかね、これらの噴火現象を見て、インスピレーションが湧き、謎を解明していきます。

この発想の転換にはとても驚いたのですが、元々、月はミネルヴァの衛星だったのではないか?という言うんですよね。

さらにミネルヴァが破壊されてから母体を失った月は、太陽方向に進む過程で、偶然にも地球の衛星軌道に乗ったのではないか?という。

これには笑ってしまいましたが、いやぁ面白いなぁと。これにより、チャーリー(死体)のメモ内容の矛盾は解明されるんですよね。

さらにミネルヴァの大気は、火山活動活性化などにより、二酸化炭素濃度がかなり高かくなっており、惑星脱出を試みていたのではないかということも。

その中でも特に面白いのが、ネアンデルタール人他、類人猿と人型(ホモ・サピエンス)の連環性の無さを突いた仮説が出てきます。

そもそも猿から人への進化の過程を実証する化石などは、出土していないらしく、これを「ミッシング・リンク」と呼ぶらしいです。

分かりやすく書くと、猿から人への進化の大事な部分は「こじつけ、ご都合主義的解釈」だったんですよね。

ただ個人的に気になったのは、著者執筆年代(1970年代後半)のこの頃には、既に「ダーウィンの進化論」は普及されており、分子系統学?などのような遺伝子関連の分野も多少は進んでいる可能性があるので、そういうのを踏まえてという考えなのですかね?

私自身、科学分野には疎い人なので、次に進みます。笑)まぁただ作中でも触れられていますが、真実はその時代に生きた人にしか分からないこともあると、SFを楽しめということですかね、笑)

話を戻しまして、ハントたちは、そのミッシング・リンクを『ミネルヴァ(惑星)』、『ガニメアン(巨人)』『ルナリアン』を使って、現生人類の祖先の謎の仮説を、最後の最後で説きました。

高度文明を捨て、原始人となり、というかなるしかなかったルナリアンたちは、ミネルヴァという故郷や高度文明を捨て、あまりにも過酷な環境の地球で生き抜くしかなかった。

その人間の攻撃性やしぶとさなどは、まさに現在の我々の人類史とそっくりです。

月はこの頃、ゆっくりと長い時間をかけて、地球の衛星になっていき、現代の気候や重力環境を作り出しますが、それまでのルナリアンたちを想像すると…言葉には言い表せない気持ちにもなります。

これにより、ネアンデルタール人などの滅亡(説は様々)は、高度文明を持つ空からやってきた侵略者(ルナリアン)に滅ぼされたのではないか?という、ミッシング・リンクを解明する一つの仮説としても成り立ちます。

もう本当にこの終盤での空想力、怒涛の伏線回収、それを纏める構成力には眼を見張るものがありました。

とても興味深く、関心し茫然としてしまい、一旦読むのやめて考えました。笑

これが70年代で書かれただけでも凄いなぁと思いつつ、この真実は誰にも証明できないんだろうなぁと、思ってしまいました。

がしかし、エピローグで〈コリエル(巨人)〉という名前の刻印された道具が地球で掘り出されるシーンが描写されており、プロローグに出てきたチャーリーと絡む〈コリエル〉に繋がりました。

そしてこれはまた、新たな謎を残し、物語は幕を閉じます。

地球に侵略したのはルナリアンではなく、ガニメアンだったのか…?

そうなると現生人類の祖先仮説がまた無に…

まとめ

はい、という感じで本作は三部作「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」+二冊?のシリーズものらしいです。

日本では訳されていない一冊もあるらしいですが、とりあえず三部作は全部訳されているので、三部作だけでもよんでみたいですね。

ただ一応書いておくと、この一冊でもある程度の謎は解明され、スッキリはするので、本作だけでも読んでみる価値は十分にあると思います。

これは続編を読みたいと思ってしまうシリーズなのですが、読めるかなぁ。こればっかりは積読本たちと相談するしかないですね。笑

それくらい魅力的な物語でした。

近年では、木星探査などが始まろうとしていたり、火星や、月面再上陸など、さらに新たに日本人宇宙飛行士も決まったり、未来はどこまで宇宙を知れるのか、とても気になるところです。

それでは今日はここまで。お読み頂きありがとうございました。

私自身、科学分野には疎いので、理解力に乏しい部分もあると思いますが、独自の解釈ですので、どうかご理解下さい。

翻訳は池 央耿(いけ ひろあき) さんです。

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