あらすじ
誰かに食べさせたい。願いがかなって杉の木に転生した亜沙は、わりばしになって若者と出会う(「木になった亜沙」)。どんぐりも、ドッジボールも、なぜだか七未には当たらない。「ナナちゃんがんばれ、あたればおわる」と、みなは応援してくれるのだが(「的になった七未」)。夜の商店街で出会った男が連れていってくれたのは、お母さんの家だった。でも、どうやら「本当のお母さん」ではないようで…(「ある夜の思い出」)。『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した気鋭の作家による、奇妙で不穏で純粋な三つの愛の物語。
(文藝春秋より)
感想・レビュー
やはり今村夏子は恐るべし。
ちょうどこれで今村作品は5作目になります。
正直な話、前回の「星の子」の終わり方が今村さんらしくない終わりだったので少し信頼度が落ちていたのですが、今までの作品の貯金を鑑みて書店で購入しました。
結果今回は……満点、大満足の、いやそれ以上でした。
ぶっ飛び具合と不気味さが完璧。笑
もう予想以上で、読んでいてそうそう、これこれ、こういうぶっとんだ今村夏子作品が読みたかったのだと何度も頷きました。
今回は「木になった亜沙」「的になった七未」「ある夜の思い出」の三つの短編が収録。
ではさっそく一編ずついってみましょう〜
「木になった亜沙」
タイトルから少し笑ってしまいますが、内容は流行りの転生モノのような。
今村さんが書くとこうなるというか、序盤の引きは割とよく著者でありそうな展開ではありますが、転生後の話の流れとかも短いながらも日常を切り取りながらもぶっ飛んだ作品でした。
木になってそういう視点から物語を書くのかぁと、角度の切り取りに脱帽します。とても面白かったです。
「的になった七未」
次に多分本作の本命のようにも感じた作品。
三作の中で一番頁数があったこの作品。まあ、これが面白いんですよ。
七未の異常さを形成していく幼少期から中学の的になるのに「当たらない」話が面白過ぎて何度も笑いました。
その後の異常さからくる展開がまた流石、秀逸としか言いようがない。
今村夏子さんは、基本的に筆を走らせて2文目を書くタイプだと勝手に思っていますが、今回は長めだからか、構成もかなり巧みで、感性的才能だけではなく、技術的な良さもありました。
「ある夜の思い出」
では最後の収録作品です。
こちらも短いながらもまたぶっ飛んだ作品でした。簡潔に自堕落若しくは精神的な病な人間が、犬的な扱いを受けて、正常に戻る境界線を描いた作品で、是非とも読んで欲しいです。
出会ったジャックという男も、語り手の女も、笑えるし、引き込まれます。
改めてこの一冊は自分の中の今村夏子作品の中でもかなり上位かもしれないです。
読了後も自分の感想を見ては「あぁ、そうそう」と明確に思い出せる印象強い作品でしたね。
それでは今回はこの辺で、ではまた次回の感想・レビューでお会いしましょう。さようなら。