あらすじ
十セントの古本の山から、数百ドルの値打ちの本を探しだす―そんな腕利きの“古本掘出し屋”が何者かに殺された。
捜査に当たった刑事のクリフは、被害者の蔵書に莫大な価値があることを知る。貧乏だったはずなのに、いったいどこから。
さらに、その男が掘出し屋を廃業すると宣言していた事実も判明し…古書に関して博覧強記を誇る刑事が、稀覯本取引に絡む殺人を追う。
すべての本好きに捧げるネロ・ウルフ賞受賞作。
(早川書房より)
感想・レビュー
このミステリーがすごい!海外《1997年》第一位
原題『Booked to Die』
タイトルから窺える通り、古書ミステリーです。
まずいつもの所感としては、面白いのは面白かったです。
終盤まで引っ張る力もありますし、主人公が刑事なので警察ものかと思いきや、第二部で古書店主にジョブチェンジしていく過程もとても新鮮で魅力的でした。
ただどうしてもミステリーとしては普通、というのが妥当かな、というのが正直な所です。
前半のヒリヒリした展開がありつつも、後半どうしても小さく纏まってしまったかなと。
一応補足しておきますと、多少こじつけ感もありますが、本格として読めるのは間違いないです。ただそこに何か大きく上回ってくるのがあるか、ないかということです。
やはり書物をキーポイントに事件が起こると、どうしてもネックになるのが、ホワイダニット(動機)なんですよね。
このホワイダニットがどうしても書物や稀覯本に関するものだと、似たりよったりな展開になってしまいがちです。
まぁこれは書物を扱う系のミステリーに通づるものなのかもしれませんから、仕方ないといえばそうなのかも知れません。
ただ他で、笑える部分が個人的に多かったり、面白い部分が沢山読めたのと、全体的にもリーダビリティも良かったですし、割と長いお話の二部構成なのですが、読むスピードは全然落ちませんでした。
やはりそうなってくると面白いのは面白い、という感じになりますね。笑
物語は展開的にもあらすじに書いてある通りなのですが、いつものように軽く振り返っていければなと思います。
ではまず【第一部】から。
主人公の「クリフ」は刑事で、まさに事件一筋という絵に描いたようなデカですが、趣味に読書や稀覯本集めを嗜んでいました。
そこで、古本の掘り出し屋「ボビー」が何者かに殺されます。
クリフは、ボビー殺害事件の担当になり、古書店業界や、本の魅力に取り憑かれた者たちと交流していくうちに、趣味だった〈本〉の世界により強く引き込まれていきます。
ですが、クリフにはどうしても捕まえて、刑務所にぶち込んでやりたい「ジャッキー・ニュートン」という悪い男がいました。
ジャッキーとはかれこれ、何度も対決をしては、のらりくらりと上手くやりこめられており、まさに因縁の相手というやつです。
クリフは殺人事件を追いながらも、ジャッキーの影に怯え、早くケリをつけたいという強い思いから、ついにジャッキーを追い詰める日が来ました。
ですが、クリフはここで刑事としては予想外の行動をとります。ジャッキーを拉致し、川辺?だったか忘れましたが、一対一の男の決闘を挑みます。
見事、勝利したジャッキーでしたが、これを機に世間では大バッシングをくらい、刑事を引退します。笑
ただこの展開は、クリフにとっても古書店主になりたいという密かな思いと、ジャッキーとケリをつけたいという2つの思いを同時に達成する本望でもありました。
本当に本作はこういう展開からして面白いんですよね。常に読者の裏をかいてくるようなお話の持っていき方をしてくれるので、読んでいてワクワクもします。
話を戻しまして、クリフはこれにより刑事を引退しましたので、殺人事件の方は未解決のまま一旦幕を閉じます。
そして【第二部】では古書店主になり、愛嬌のある娘「ミス・プライド」と共に働きながら古書店主ライフを楽しんでいました。
このおてんば娘のようなミス・プライドが登場してから、またガラッとハードボイルドだった雰囲気から一変して、書店系物語という楽しい時間になるんですよね。
ただ主人公のクリフには、再度ジャッキーが関わってきて、不穏な展開に徐々に引き戻されていきます。
かなり省きますが、さらにミス・プライドも殺されるという悲劇的な展開があり、クリフは古書店主から刑事の自分に戻ってしまうんですよね。
ジャッキーは意外な展開で退場しますが、その後、アメリカではお馴染みの恋愛展開を挟みつつ、未解決だった事件とミス・プライドたちの殺人事件が一致し、クリフは犯人を暴き出しました。
まぁやっぱりここですよね。犯人を暴くまでの展開は緊張感あって良いんですけど、大事な驚きの部分がそこまで強くはなかったかなと。
あともう少し欲を言うならば、事件後のミス・プライドなどのフォローがあれば、より良かったかなぁと個人的には思いましたね。
とはいえ、当時(80年代)アメリカの小説、文学事情なんかも詳しく描かれていて、これも結構面白いんですよ。
私は古書の知識とかには疎いので、これがどこまで正確なのかは分からないのですが、知識、雑学も本当に多いんですよね。
あとスティーヴン・キングの悪口も書きまくっており、めっちゃ笑いました。少し前の日本なら東野圭吾とかがそういう感じなのかなぁ。笑
やっぱりベストセラー作家って、大衆には受けるんですけど、マニアックな方には必ず罵倒されるというか、宿命と言いますか、必ずこうなるんですかね。笑
おわり
本を巡るお話を過去に幾つか読んではきましたが、また本作で新しい一面を見れたかなと思います。
いつか書物や書店など、本を扱った小説を紹介する記事なんかも書きたいですね。
とにかく本書は、展開のもっていき方がとてもユニークなので、その辺りも構成力がなせる技なのかなと。
解説を読んで知ったのですが、著者のジョン・ダニングさんは、一度作家としてデビューを果たしてから、出版社とトラブルがあり、その後10年程は作家としては休止状態だったらしいです。
じゃあその10年間何をしていたのかというと、なんと主人公のクリフと同様に書店を経営していたらしいんです。笑)その後の復帰作が本作の「死の蔵書」になるみたいです。
あと書き忘れていましたが、本作は比喩表現も豊かで、どこまでが原文のままなのかはわかりませんが、今ではコンプライアンス的に絶対できないような表現なども読めるので、そういう所も含めて、物語も楽しめる一冊だったかなと思います。
翻訳は宮脇孝雄さんです。
はい、という感じで今日はこの辺で。
最後に本作で、一番ナイスだった比喩表現を一部引用させて頂き、終わりたいと思います。笑
ではまた。
「まずシャワーを浴びて、きみのその体を銃火器で攻撃したい」
(死の蔵書より)
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