あらすじ
静岡のゴミ屋敷の焼け跡から、3年前に東京で失踪した若い女性の遺体が見つかった。
逮捕されたのは、23年前の少女殺害事件で草薙が逮捕し、無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。町のパレード当日、その男が殺された――
容疑者は女性を愛した普通の人々。彼らの“沈黙”に、天才物理学者・湯川が挑む!
ガリレオvs.善良な市民たち
“容疑者X”はひとりじゃない。
(文藝春秋より)
感想・レビュー
このミステリーがすごい!《2019年》第4位ノミネート
ガリレオシリーズも第9弾です。
長篇です。シリーズの長篇としてはおそらく「真夏の方程式」以来になります。
まず率直に、読了後の所感としては、いやぁ、面白かった。これはもう、文句ないよねって感じでしょうか。
私個人としては、シリーズの中でも最高傑作だと思っている「容疑者Xの献身」をここにきて越えた、若しくは進化したのではないだろうかと思えました。
もちろん容疑者Xの献身は、シリーズの長篇の中でも構成的に特殊なの作品、他の長篇と比べるのもどうかとも思ったのですが、なぜそのような評価になったのか、その理由も含めて、ぼちぼち感想を書いていきます。
さて、物語は前巻の「禁断の魔術」から数年後が経過しており、湯川は研究の為にアメリカに旅立ち、そして帰国してきました。
この湯川のアメリカ行きの内容は、ざっくりと研究の日々だったと本人は言っていましたが、著者的な目線で考えるなら、意味もなくアメリカに飛ばし、数年間を経過させる理由はないので、他に何か仕掛けがあるのかもしれません。
ですが、本作ではそこは深く掘り下げられませんでした。
こうしてシリーズ内で時間が経過しているので、当然草薙たちの時間も経過しており、湯川は准教授から教授に、草薙も係長?忘れましたが、お互いに位が昇格していました。
そしていつも通り、事件が起きます。
あらすじにもある通り、ある日、静岡のゴミ屋敷の焼け跡から、3年前に東京で失踪した若い女性の遺体が見つかります。
その女性とは、街の飲食店の娘で、美貌と愛嬌に優れ、かつては歌手になれるほどの歌の才能を持っていた。
そして逮捕されたのは、23年前の少女殺害事件で草薙が逮捕し、無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。
町のパレード当日、なぜか無罪となった男が殺される。と、事件の内容に関しては、作中では読むとわかりやすいんですけど、説明しようとすると、結構複雑に絡まり合ってて、長くなるのでこの辺で割愛します。
まずシナリオの進め方としては、通常通りで、事件を追いかける草薙や内海薫などの視点と、主に舞台となる街の市民たちの視点、それに湯川が交じってくるというシリーズとしては、オーソドックスなスタイルでした。
ですが、アメリカ帰りの湯川の様子がいにつになく積極的で「おかしいと」、草薙が漏らすシーンがあったりと、この辺は最後まで説明がありませんでしたが、何か今後わかったりするのでしょうか。
ひとまず湯川の様子は置いといて、草薙たちが事件の謎を追いかける流れや、湯川が少しずつ事件に関わってくる流れなんかは、相変わらず面白く、捲る頁が止まりせん。
あらすじからもそうですが、そもそも事件の謎が意味不明過ぎて、とても魅力的で、これどうやって事件を解決していくんだ?とワクワクさせられる。
当然、事件は難航して、別の事件が発生したり、今回は結構本事件から逸れかけたりするんですよね。それでもそこまで気にならなかったのは、やはり人間関係の見せ方だったり、一つずつ解決の糸口を見せていくタイミングの上手さですよね。
こうして、徐々にトリックが明らかになり、ここからですよ、容疑者Xの献身を越えるのは。
トリックが露呈し、長かった事件は、ようやくひとまず解決します。かと思いきや、全く別の展開をみせはじめます。
そうして散々推理を披露したガリレオは、最後に新たな推理を予想外の真犯人に、そして真犯人すら知らない予想外の真実を披露するのですが、そこで彼は言うのです。一部引用させて頂ます。
「僕には苦い経験があるんです。以前にも似たようなことがありました。愛する女性のために、すべての罪を背負おうとした男がいたんです。でも僕が真相を暴いたため、その女性は良心の呵責に耐えきれなくなり、結果的に彼の献身は水泡に帰してしまいました。同じようなことはもう繰り返したくない、という気持ちがあります」
(沈黙のパレードより)
あのガリレオが、変わった。進化している。まさに本シリーズとしては珍しい探偵論。私は思わず泣きそうになりました。笑
このシーンは、まさに容疑者Xの献身に近い状況が再現されているんですよね。私はここを乗り越えて、真犯人たちに選択をさせ、最良かはわかりませんが、探偵の役目を果たしたと思います。
あの胸が痛くなるような慟哭で終わった容疑者Xの献身を間違いなく成長という意味で、越えたのではないかと思いました。
過去には、それとは似てるようで違ったベクトルの「聖女の救済」なんてこともありましたが。
これまでのシリーズでも少しずつ湯川の変化は描かれていましたし、私もその成長、変化の過程がすごく好きで感想に書いてきたりしました。
確かに思い返せば、今巻はポアロの名前が出てきたり、推理小説の名前が出てきたり、最後に湯川が「探偵みたい」と言われたりするシーンが多々あったように思われます。
やはりアメリカで何かあったのでしょうか。すごく気になります。
まぁこうして二点三点とひっくり返った真相が解明し、ついに真犯人とその悲しい真実が明かされました。
所謂、どんでん返しなんですが、明らかに人間関係を巧みに扱ったハイクオリティなものだったと思います。
東野さんがなぜミステリ業界で今も尚、売れ続けるのか、本格トリックのロジックだけじゃない、その答えが、ここにあるような気がしました。
タイトルの「沈黙のパレード」は、対極の言葉を並べた松本清張スタイルで、王道。遠藤周作の「沈黙」とは違ったベクトルの沈黙が描かれていまして、少し法律外のことなんかは、勉強にもなりました。
うむ、今思うと内海薫もやはり作品の華だ。笑
締めようとして今思い返しんですけど、終盤で、ガリレオが最後の推理を見せる前にギターを軽く弾くシーンなんかありましたけど、あれ、また福山雅治に寄せていってるやんって、笑ってしまいました。
なんか前もありましたよね、内海薫が新幹線で聞いている音楽が福山雅治だった?かなんかありましたよね、まぁいいや。
全体振り返ってみると、女子中学生たちのバンド名が「ミルク」とか微笑まし過ぎて笑ってしまいましたけど、東野圭吾作品らしい音楽の部分や、ガリレオシリーズにしかないシリアスな笑いもあって、そういう強みも生かした本作だったかなと思います。
それでは長くなってしまいましたので、この辺で。疲れたので寝ます。おやすみなさい。
ガリレオシリーズは次作も読みます。
お疲れ様でした。
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