あらすじ
大手広告代理店を辞め、「珠川食品」に再就職した佐倉凉平。
入社早々、販売会議でトラブルを起こし、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ異動となった。クレーム処理に奔走する凉平。実は、プライベートでも半年前に女に逃げられていた。ハードな日々を生きる彼の奮闘を、神様は見てくれているやいなや…。
サラリーマンに元気をくれる傑作長編小説。
(光文社より)
感想・レビュー
荻原浩さんは初読みになります。
あらすじからしてサラリーマンものか、忘れているだけかもしれませんが意外と読んだことがないジャンルだな、と思い読んでみました。
まず読了後の率直な所感としては、失礼ですがそこまで期待値が高くなかったせいか、これまた意外に面白かったなぁという感じでしょうか。
題材が題材なので、序盤を読んだ時に中盤の中だるみを勝手に懸念していました。
ですがそこも上手く乗り越え、各所で色々と撒いた種が終盤になって怒涛のように咲きみだれ、微妙にずれていた歯車が一気に噛み合っていくのが伝わってきて、捲る頁が止まりませんでした。
構成がとても巧みなのと、登場人物の書き分けがとても巧みな作品でした。
読み終わってから徐々に気付くんですけど、これまた失礼な話ですが荻原浩さんって、かなり筆力が高くないか?ということ。
文庫本の著者プロフィールを見ると、小説すばる新人賞からデビューしており、解説によると著者はかなり多彩なジャンルを執筆し刊行しているとのこと。
確かに、この筆力の高さはそういうことか、と一人でに納得しました。
物語の方も食品業界のサラリーマンものではありますが、地味にならないような配慮はされており、キャラ付けやシナリオの雰囲気もエンタメ感強めだったかと思います。
でもどこか読んでいてリアルな要素もちゃんと織り交ぜてくるので、嘘になりすぎないような、バランス感覚だったと思います。
古い組織のサラリーマン事情だったり、派閥、組織に属するものだけが持つ弱さや醜さなんかも描かれていて、その辺も興味深く読ませて頂きました。
あとユーモアチックな部分もあり、特に私の中で本作の印象を底上げしたのは、最後のシーンだったと思います。
「また、よろしくぅ」と主人公が言った直後、久しぶりに再会した彼女にビンタされて終わる終わり方はめっちゃくちゃ笑えました。
終盤の怒涛の展開から鑑みて、エピローグはしっとりクリスマス。どう考えてもいい感じな終わり方かと思いきや、変にカッコつけた終わり方じゃなかったのもかえって本作にとてもマッチしていると思えました。
主人公は肩にティンバーウルフのタトゥーが入っていたり、左遷されたお客様相談窓口のキャラクターがエンタメ感強めだったりします。
最初はこの設定は本当にいるのか?と多少懐疑的な気持ちにもなるのですが、終盤まで来るとしっかり意味のない設定は何一つなかったな、と思わせてくれました。
まぁ強いていうなば、このキャラクター設定を受け容れられるかで本作の印象が変わってくるのかな、と思います。
多彩な作品を書いている方なので、また別の作品の方を機会があれば読んでみたいと思います。
それでは今日はこの辺で。お疲れ様でした。