あらすじ
イギリスの小さな町に住むピップは、大学受験の勉強と並行して“自由研究で得られる資格(EPQ)”に取り組んでいた。
題材は5年前の少女失踪事件。
交際相手の少年が遺体で発見され、警察は彼が少女を殺害して自殺したと発表した。少年と親交があったピップは彼の無実を証明するため、自由研究を隠れ蓑に真相を探る。
調査と推理で次々に判明する新事実、二転三転する展開、そして驚きの結末。ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、イギリスで大ベストセラーとなった謎解き青春ミステリ!
(創元社より)
感想・レビュー
「〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 海外篇:第1位」、「2022年本屋大賞 翻訳小説部門:第2位 」、「このミステリーがすごい! 2022年版海外編:第2位」、「〈週刊文春〉2021ミステリーベスト10 海外部門:第2位」、「2022本格ミステリ・ベスト10 海外篇:第2位」
原題『A Good Girl’s Guide to Murder』
原題も良いですが、邦題がすごく良いですね。
というより日本で売れた理由の一つにこのタイトルが貢献しているのは間違いないと思います。
そして【ピッパ・フィッツ=アモービ!】なんて響きの良い主人公の名前なんだ!笑
ということで、あらゆる賞を総なめしている本作ですが、イギリス発で著者のホリー・ジャクソンさんのデビュー作らしいです。すごいですね。
そんな英米で大ベストセラーの青春謎解きミステリをさっそく読んでみました。
まずいつもの所感としては、いやぁ終わってみれば結局凄かったなぁ、と唸らされている感じですかね。
ミステリとしては王道の終盤に一気に畳み掛けてくる系で、二転三転と展開が凄まじい。その勢いと熱量は確かにデビュー作らしいとも言えます。
一方で、トリックの組み方や構成力、人間関係の描き方など、どれもデビュー作とは思えない冷静さで、驚きました。
物語の舞台は、イギリスの小さな田舎町リトル・キルトン。調べたんですけど、出てこないので架空の街?ですかね。
その街に住む、優秀な女子高生、ピッパ・フィッツ=アモービ(探偵)が、5年前にリトル・キルトンで起きた悲劇の事件を「自由研究」の題材として選びます。
この悲劇の事件は、高校生カップルの殺人事件で、彼女を彼氏が殺したという。
ですがここからが奇妙なんです。
まず殺したと言われている彼氏も自殺で死んでいて、遺体は見つかっており、何故か殺された彼女の方の遺体は見つかっていないんですよね。
ですが彼氏には様々な彼女を殺した、と思わしき可能性が残っている。でも死亡しているので、何も本人からは聞き出せない。彼女も身元不明。
これは日本でも英国でも同じですが、十代の子供が身元不明になってから5年もの月日が経過していると、かなり高い確率(確率忘れましたが)で、死亡しているとのこと。
という奇妙な解決の仕方をしているんですよね。
そんな悲劇の事件を、ピッパは調べはじめ、徐々に事件の本当の真相に辿り着いていく…という感じで、失踪系のミステリとも言えました。
この邦題にもある「自由研究」というのを隠れ蓑として、過去に閉じたはずの事件を再捜査していく、という発想もユニークで面白いですよね。
どんどん事件にのめり込んでいく過程には、目が離せませんでした。物語の真相が何度も見えかけては雲隠れし、焦らされる過程も憎いけど、上手いなと。
ピッパは今どきのティーンズでもあり、オックスフォード大学を狙える優等生でもありますが、時たま危険を顧みない抑えきれない探究心があり、この不安定なバランス感覚が、本作全体の醍醐味にもなっていました。
そして殺人容疑で死亡した兄(サル・シン)の弟である(ラヴィ・シン)を相棒、助手として、事件の真相に近づいていくのも面白かったです。
個人的にラヴィが怪しくないか?って勝手に思い込んでました。まぁいつも通り全部外れましたが。笑
特に終盤の畳み掛け方は、つい寝る時間を削ってまで読んでしまうドキドキ感と緊張感で、寝不足になりました。笑
確かに、実は先生が犯人だった…っていうのは英米系の映画やゲームなどで鉄板のイメージですが、本作は複数の事件が絡んでいるので、ただそれだけじゃ終わらないという。
正直な所、中盤辺りでここまで物語を焦らす、引っ張る必要があるか?とも思っていたのですが、真相を知り、振り返ってみると確かに、全て計算し尽くされているなと。
ホワイダニットもトリック優先のような感じではあるものの、個人的には納得出来る範囲内でした。逆によくもここまで上手いことパーツがハマったなぁと感心しましたね。
相当苦労したんじゃないかと。笑
あとはSNSやデバイスなどを駆使した捜査方法など、現代的な世界観を巧みに操り、新世代のミステリーとしても読めます。
物語もインタビュー形式や、メール、チャット画面などなど、あらゆる方法で物語が進行していくので、今どきで新鮮な感じもありましたね。
その結果、本作は一方的な情報だけでは判断してはいけない、という現代的な風刺にも成功していました。
他にも王道ですが、ティーンエージャーを扱っているので、青春学園ものとしても読めます。
ただそれ以上に、等身大なピッパの勇敢な心とその姿に読者は心惹かれます。
たくさんの勇気や笑いを貰い、そして事件を追う危険さと、悲劇的な哀しみの真実もあるので、大人も読める内容にもなっていました。
最後の対決に挑むピッパと警察との電話も笑えつつも、純粋にめっちゃくちゃかっこいいんです!
さらに本作は「優等生は探偵に向かない」というタイトルで、同じくピップを主人公?とした続編があるらしいので、また機会があれば読んでみたいです。
ここからは余談ですが、本作は作中で何作かの小説が出てきますが、その中でチャールズ・ディケンズの『大いなる遺産』が出てきます。
私はこういう時、読んだことがない本だったら結構調べる人なのですが、どうやらその大いなる遺産の主人公の少年がピッパ、ピップ?だったかな、同じ名前だったので、物語的なリスペクトがあるんですかね。
タイトルは英国小説としてどこかで聞いたことがあったので、とりあえずこちらも機会があれば一度読んでみたいですね。
それでは今日はここまで。ありがとうございました。
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