あらすじ
小畑洋介、12歳。海洋生物学者の父、徹郎とフィジー諸島のパゴパゴ島に移り住んで3年になる。洋助はある朝、通学の途中、珊瑚礁の潮だまりにひとつの生命を発見した。“奇跡”との出会いだった。それは6000万年以上も昔に死に絶えたはずのプレシオザウルスの生まれたばかりの姿だったのである。しなやかな肢体と愛らしい黒い瞳を持ったその奇跡の生命は、洋助を見つめ、「COO」と歓喜の産声をあげた。こうして少年と幼い恐竜クーとのきらめく至福の日々がはじまった。だが平和は長くは続かなかった。第99回直木賞にかがやく、感動の冒険ファンタジー
(KADOKAWAより)
感想・レビュー
第99回直木三十五賞受賞作品
私が生まれる前には、アニメ映画化などされていたようです。
これまたなんとも評価が難しい作品でした。
といいますのも、前半導入部分からの、子供心がくすぐられるようなファンタジー部分が中盤辺りまで続くんですけど、これがかなりというか、めっちゃくちゃ面白いんですよ。
12歳の少年・洋介が、父が海洋生物の学者の関係もあって、パゴパゴ島に住み込み、そこで恐竜の赤ちゃん「クー」との出会いがまた何ともベタですけど、すごく良い。
他にも、鯨の友達が二匹いたり、犬も仲良しで、こういった自然と生命を感じる、ファンタジーの良いところがすごく出ていました。
現代の都会的価値観が街全体に普及する時代にこそ、またより響くような内容にも私は感じました。
ただ、問題がありまして、この作品はファンタジー以外にも幾つかの顔を持ってまして、中盤辺りから政治的な話が插入され、さらにバイオレンスアクションがはじまったりするんです。
ここが確かに「クー」を絡めた話ではあるんですけど、何というか、興が削がれるというんですかね。
本当にこの部分いるか?と感じてしまうような、もっと他にやるべき物語の道があったのではないのか、と思ってしまいました。
そう思ってしまうほどに、前半導入からプレシオサウルスの子供だとわかるワクワクするような部分、そして「クー」の可愛さなんかは、もう読んでいて子供の時にかえったような気持ちになれる素晴らしいものだったので。
うーん、汲み取るファクターを少し選び間違えたのではないか、というのが個人的な印象ですね。
直木賞の選評を読んでみると、やはりこの政治的(少しご都合主義)な要素をどう捉えるかで、選考が割れてしまったようで、かなり議論が長引いたみたいですね。
確かに最後は感動します。でも求めていたものとは少し、違いました。それは間違いなく中盤以降に汲み取ったファクターのせいです。ここで筋が変わりました。
でも、我々読者が求める物語を著者は書く必要なんて絶対ないので、これが正解なんだとは思うんです。
けれどやっぱり、もっと最後までクーと洋介にスポットライトをあててくれば、最後に特大の涙が流せたのではないかと、少し悔しい気持ちもあるのが私個人としては正直なところですね。
でも序盤からメッチャクチャ面白いんだよなぁ、笑
気になった方はぜひ、一度読んでみてください。
直木賞に選ばれている冒険ファンタジーというのも珍しい部類に入ると思いますし、私はこう感じましたが、人によっては違う感覚を覚えるのが小説の良いところであり、難しいところでもあるので。
では今日はこの辺で、終わりたいと思います。ありがとうございました。
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