あらすじ
霧深い夕暮れ、煖炉の前に座って回想にふけるチップス先生の胸に、ブルックフィールド校での六十余年の楽しい思い出が去来する――。
腕白だが礼儀正しい学生たちとの愉快な毎日、美しく聡明だった亡き妻、大戦当時の緊迫した明け暮れ……。
厳格な反面、ユーモアに満ちた英国人気質の愛すべき老教師と、イギリスの代表的なパブリック・スクールの生活を描いて絶賛された不朽の名作。
(新潮社より)
感想・レビュー
原題:『Goodbye, Mr. Chips』
1934年頃に、イギリスで発表されたジェイムズ・ヒルトンの小説。
まず所感としては、短いお話でしたが、とても良かったです。
読みながら「今を生きる」という映画を少し思い出しました。
平凡な教師と生徒が中心の「古き良き物語」と言いますか、心が和むような物語は、いつ読んでも良いものです。
物語は年老いたチップス先生の回想形式で振り返っていきます。
1870年頃、22歳になった青年チップスは、「ブルックフィールド(架空)」という村にある学校で勤め始めます。
ラテン語を教えるチップスは、最初は生徒に舐められないように、伝統や規律を強く生徒に強いるような厳格な先生でした。
おかげで生徒たちからいじめられるような事もありませんでしたが、特に親しまれることもありませんでした。
所謂、生徒たちにとっては面白みのない教師というやつですね。
ですがチップスは、休暇中に年が離れたキャサリンという女性と知り合い、結婚することに。
キャサリンは明るく、チップスには持っていないものを持っていました。
チップスは愛を知り、次第に尖りがなくなっていき、洒落を述べたりと生徒達から親しまれる人気の先生になっていきます。
ですが悲しいことに、結婚して数年経った頃に妊娠したキャサリンは、出産時に赤ちゃんと共に亡くなってしまいました。
悲しみに打ちひしがれたチップスでしたが、教職だけは65歳の引退まで続けました。
その間に様々な喜びや怒りなどが描かれており、一介の教師人生を歩みました。
チップスは沢山の生徒に見守られ引退しましたが、第一次世界大戦で教員不足が起こり復職することに。
ここでもチップスはチップスらしい授業を貫き続けました。
第一次世界大戦が終わると今度こそ教職を退き、学校の向かいにあるウィケット夫人の家に住まわせて貰います。
時に学校行事を見にいったり、小説を読んだり、生徒たちがチップスを訪ねてくる日々もありました。
そして彼はブルックフィールドで教師人生を全うし、誰とも再婚せずに安らかに息を引き取りました。
おわり
移り変わる社会背景を差し込みつつも、普遍的な教師と生徒という学校の時間を描き続けたことがとても良かったなと思えました。
普遍的な教師と書きましたが、チップス先生は時代背景(普仏戦争?や一次大戦)を考えると、軍国主義的な国家社会なはずなのに、常に生徒たちを優先する良い先生だったのかなと、個人的には思っています。
チップス先生の口癖は、会話中に常に「あーム……〇〇……あーム」とこの「あーム」挟むことなのですが、笑)これがチップス先生らしさを表す一つで、なんか良いんですよね。
どこの学校にも一人はいそうな、喋る時に独特の癖がある先生と言いますか。
そういうものはやはり時代が変わっても、国が変わっても、普遍的なものなのですかね。
古い小説ですが、とにかく出会えて良かったなと思える一冊でした。
厚みもなく、読了後に少し「ほっこり」出来る小説なので、夜寝る前とかに、少しずつ読むのもいいかもしれませんね。
それでは、また。