あらすじ
帝の寵愛を一身に集めた桐壺の更衣が産んだ美しい皇子と、かかわる人々の姿を情感豊かに写し取った、世界最古の長編小説「源氏物語」。切なさといとおしさに満ちあふれた恋模様や、熾烈な権力闘争など、いつの世も変わらない人間の営みを描ききった日本文学の最高傑作が、與謝野晶子の優しく格調高い筆致で現在によみがえる、54帖全訳の決定版! 第一巻には「桐壺」から「花散里」までを収録。
(KADOKAWAより)
感想・レビュー
おそらく『長編小説』という括りでいうと、世界最古と云われている源氏物語。
ようやく読むことが出来ました。
執筆時代は、推定で平安時代中期辺り(1008年頃・寛弘五年)らしいです。
まずこれだけの長い期間、小説を残せた日本人の感性が素晴らしいなと思いました。
そして長期間保存し、時代に合わせて、翻訳し続けた労力と研鑽、その苦悩は計り知れないです。
どうしてここまで小説を残せたのかが気になって、読んだあとにその理由を少し調べてみましたが、これには古代日本人の宗教観や、怨霊を恐れる人種的特徴もあるとかないとか、なるほどなぁと。
個人的には日本語の祖である中国が最古の長編小説を書いていそうですけど、やはり文化的に秦の始皇帝の焚書坑儒とかの概念が強く残っているせいか、そういった長編小説の書物は残っていません。
竹取物語の時も思いましたが、これは日本が世界に誇れるものの一つといっても過言ではありませんよね。
時空を超越しているとは、まさにこのことで、千年後に生きる人々が読める長編小説なんて、早々ありませんよね。笑)
色々と調べたら原本が残っていないらしいので、写本を代々書き綴ってきたのが現実らしいですが。
さて今巻は、与謝野晶子の翻訳で、「桐壺」「箒木」「空蝉」「夕顔」「若紫」「末摘花」「紅葉賀」「花宴」「葵」「榊」「花散里」までが収録。
与謝野晶子は、以前に「みだれ髪」の歌集を一度読んだことがあるくらいですかね。
他にも谷崎潤一郎や角田光代さんなど、その他にも色々な方が、その時々に翻訳されているらしいです。
さて、物語の方は、主に恋愛?小説の部類に入るのですかね。初刊は「花散里」までしか収録されていなかったのですが、現状はそんな認識です。
時代背景と現代日本が流石に違いすぎて、仕方ないのかもしれませんが、流石に光源氏が性欲の権化に見えて仕方なかった、笑)
下は幼女、上は老女までオッケーと、そのストライクゾーンの広さに驚きを隠せない。笑
日常から常に女のことを考え、美男のせいもあって女癖もかなり悪く、不義が多い。それに若紫なんかは、もう現代なら立派な幼児誘拐ですからね。笑
あとなぜか作中でみんなめっちゃ泣きます。笑
まぁ1000年もの時が経てば、文化文明なんて全然違いますからね。
若紫はすごく可愛いんですけどね。笑
むかし谷崎潤一郎が「源氏があまり好きでない」といっていたのをどこかで読んだことがあって、それを思い出しましたね。
あとはやっぱり、作中で紫式部が源氏を肯定しすぎるような描写が多いんですよ。
これは前半で書きました「どうしてここまで小説を残せたのか?」に繋がってくるんですけど、これも日本人ならではの感性かもしれないらしいです。
といいますのも、せめて物語の中だけは、源氏を素晴らしく描くことにより、成仏させてやることで、怨霊を避ける為の死者を供養する的な意味合いがあるかもしれないそうです。
真実は紫式部にしかわかりませんが、面白い考察だなぁと関心しました。
それはさておき私自身、戦国時代より前の時代の作品を、おそらくですが読んだことがなく、平安時代というだけでもかなり新鮮でした。
物語のレベルは正直そこまで高くなかったですが、それはむしろ当たり前で、環境も何もかもが違う現代作家の方が確実に技量はあります。
逆に1000年も前の小説の方が技量が高いというのは、流石に業界的にも進展していないということになりますし。
ただ良いところもちゃんとありまして、源氏を通して描かれる様々な女たちの感情が面白く、それは女たちの環境や役職などを反映しており、見事に書き分けられていました。
それを通して、源氏が成長していく。ある意味、小説の流れといいますか、原点はここにあったのかと思ってしまうような、筋みたいなものがありました。
あとは歌もよかったですね。与謝野晶子が翻訳してるというのもあるのかもしれませんが、風情があって、わからないなりに楽しめたかと。
ぼちぼち疲れてきたので、この辺で終わりたいと思います。お疲れ様でした。