あらすじ
孤独は味方だ。ユーモアという武器で世界の絶望と闘った作家の大傑作。
老成と若さの不思議な混淆、これを貫くのは豊かな詩精神。飄々として明るく踉々として暗い。本書は初期の短編より代表作を収める短編集である。岩屋の中に棲んでいるうちに体が大きくなり、外へ出られなくなった山椒魚の狼狽、かなしみのさまをユーモラスに描く処女作「山椒魚」、大空への旅の誘いを抒情的に描いた「屋根の上のサワン」ほか、「朽助のいる谷間」など12編。
(新潮社より)
感想・レビュー
井伏鱒二のデビュー作「山椒魚」が収録された短編集。
井伏鱒二は初読みになります。
「山椒魚」「朽助のいる谷間」「岬の風景」「へんろう宿」「掛持ち」「シグレ島叙景」
「言葉について」「寒山拾得」「夜ふけと梅の花」「女人来訪」「屋根の上のサワン」
「大空の鷲」の12編が収録。
他「井伏鱒二 人と文学 河盛好蔵」「『山椒魚』について 亀井勝一郎」「年譜」も収録されています。
個人的には「山椒魚」「朽助のいる谷間」「掛持ち」「シグレ島叙景」「言葉について」「夜ふけよ梅の花」「女人来訪」「屋根の上のサワン」が記憶に残りました。
「山椒魚」は短いながらユーモアチックに内面を描いていて、笑えます。
その中でも「女人来訪」はかなり面白かったです。結婚して三ヶ月の妻に不満を持つ夫の下に昔、振られた女からある一通の手紙が届き、会いたいという知らせを受ける。
男は動揺の中で気分を高ぶらせるが、妻に手紙のやり取りがバレる。結果、妻がいる家にその女がやって来て国に返すまでの一連の流れが面白かったです。
文体は情景描写や言葉の使い方に詩的さがあり、個人的な好みとは言い切れませんが、読みやすい方だと思います。