あらすじ
文明開化期から村上春樹まで、日本の近代小説史を一冊で案内する。
写真図版を多数収録し、著名な作品の本文紹介も充実。
最新研究に基づく入門書の決定版。
(中央公論新社より)
感想・レビュー
日本の近代文学の大まかな流れをもう一度、ちゃんと知りたいなと思い、読んでみました。
以前にも自分で調べたり、昔の教科書類などを引っ張ってきてノートにまとめたりしていたので、だいたいは知っていましたが、本書は更に細かい知識なども小ネタとして教えてくれます。
坪内逍遥から村上春樹辺りまでの文学史を約200頁に収めるのですから、かなりコンパクトな要約が必要ですが、全体を再度把握するには、持ってこいの一冊だったと思います。
読んでいて「なるほどなぁ」「そういう流れがあって、ああいう作風だったのか」など、文学を新たな視点で見ることが出来るようにもなりました。
ざっくり本書の流れを書いてみると。
- 文明開化と「文学」の変容
- 明治中期の小説文体
- 自然主義文学と漱石・鷗外
- 大正文壇の成立
- マルキシズムとモダニズム
- 第二次世界大戦と文学
- 戦後文学の展開
- 高度経済成長期とポスト・モダン
という全八章の構成で、コンパクトに纏められていました。
明治期の「戯作」「政治小説」「翻訳小説」を触れて始まります。
その後、坪内逍遥の試み、二葉亭四迷の苦悩。森鷗外、言文一致の挫折。一般化まで。
自然主義が誕生。
夏目漱石、尾崎紅葉、幸田露伴、田山花袋、樋口一葉、泉鏡花、国木田独歩などの登場。
その数年後すぐに反自然主義が文壇を台頭。耽美派に永井荷風、北原白秋他、白樺派に武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎などの学習院大学出身者他、新思潮派に谷崎潤一郎、芥川龍之介、久米正雄、菊池寛など、他にも続々と時代の寵児が生み出されていく。
勢いのあった反自然主義文壇は、やがて芥川、有島の自死により行き詰まり、時代は心境小説、プロレタリア文学の小林多喜二「蟹工船」などに移行。
その後、関東大震災を挟み、新感覚派のモダニズム【川端康成、横光利一】などが台頭。
さらに昭和初期には井伏鱒二、梶井基次郎など他がナンセンスの影響を受けて新興芸術派として登場してくる。
第二次世界大戦に入り、プロレタリア文学は弾圧され消滅。転向文学が国策文学、生活・生産文学として、社会主義系作家から出現。多くの作家が隠居、従軍し、いかに文学が戦争に対して無力だったかを知る。
純文学に対抗して、大衆文学が栄える。江戸川乱歩、夢野久作、などを筆頭に探偵小説、歴史、時代小説、通俗小説などが流行。
終戦、プロレタリア文学の再興として「新日本文学」「近代文学」が刊行。
その他にも文芸復興の意味合いも込めて、1934年には芥川賞や直木賞を創設。
戦後文学の一つとして、無頼派【太宰治、坂口安吾】などが登場。私小説作家の流行と破滅。太宰治は没落貴族を描いた「斜陽」でベストセラーを叩き出すも、心中死する。
第二次戦後派として安部公房、原民喜、大岡昇平が戦争文学を書く。
少し遅れて三島由紀夫がデビュー。古典主義と対にあるロマン主義をも書き、独自の文体の理論を形成し、一躍有名に。その後も順調に活躍するも、天皇革命を説いて市ヶ谷駐屯地にてセンセーショナルな自殺を遂げる。
第三の新人として安岡章太郎、遠藤周作などがデビュー。さらに開高健、大江健三郎が台頭し高度経済成長期へ時代は流れる。
石原慎太郎『太陽の季節』が第23回芥川賞授賞で大流行。その後芥川賞を獲った松本清張も社会派推理小説で時代を席巻する。
他にも井上靖、吉川英治、司馬遼太郎、山本周五郎なども登場し、文学全集の黄金期にもなった。
内向の世代の登場。女性文学の台頭し、ポストモダン文学へ。村上龍、村上春樹などがデビューする……。
という感じで、これでもかなり省略しましたが、いかがでしたでしょうか。
私は本書を読んで、要約を書いて、いかに文学が人を突き動かし、時代と共に進化や衰退を繰り返し、発展を遂げてきたのかを改めて思い知ると同時に、小説という可能性に胸が熱くなり、同時に虚しさや、切なさ?儚さ?のようなものも感じました。
村上春樹以降の文学からおよそ2.30年の歴史は空白ですが、時代はまた大きく変わってしまったと思います。
純文学は今や一般文芸やライトノベルに席巻され、もっというと娯楽は小説ではなく、動画や漫画に奪われかけています。
それでも私は、いつか、小説がまたブームになるような気がしています。時代の流れは、単純な動きを見せず、いつも我々の予想を大きく上回り、歴史となっていく、それを本書で学んだ気がします。
最後に本書の著者さんの情報を掲載し、今日は終わります。お疲れ様でした。
安藤 宏(あんどう ひろし)
1958年東京都出身。82年に東京大学を卒業。85年、同大学院人文科学研究科博士課程に進学。その後東京大学文学部助手、上智大学文学部講師、助教授を経て、東京大学大学院人文社会系研究科教授。