あらすじ
私を阻むものは、私自身にほかならない――ラグビー、筋トレ、恋とセックス。
ふたりの女を行き来する、いびつなキャンパスライフ。
28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。
(河出書房新社より)
感想・レビュー
第163回芥川賞受賞作
なんとも評価が難しい小説でした。面白さは所々にあって、文章も読み易いし、文学的に収まっているのだけど、なんだろう。
銘を打たれているこの「新時代の虚無」というのは、自分の中では然程理解できなかったかもしれません。
だけど主人公のような男は、確かに現代的な象徴なのかしら。確かに見えないルールに縛られる主人公は情報社会が生み出した現代的な象徴とも言えます。
ただ同じ若者視点(少し遠野さんより年下)から見る限り、主人公は新時代的というより過去的にも思えるような。
はっきり言ってラグビー、筋トレ、恋、セックスって昭和の純文学とも思えてしまう題材ですよ。笑
あと物語の作りが結構村上春樹作品に似ているなと思いました。特に「膝」の喋り方とかですね。
というのも現代の若者って個人的な見解なんですが、恋愛に主軸をおく人って昔ほどいないと思うんですよね。
その幾つかの理由が、生き方の自由度が明きからかに昔と違うのかと。まぁそれも結果的に情報社会に直結するのでしょうけど。
その良い例が本作の次に芥川賞を受賞した宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」ですね。
この作品は、自分の人生を推しに捧げる、つまり推し(他人)が背骨(己)になった結果、最後に推しが消える。
そして最後の虚無感まで描いているのですけど、まさにこれこそ新時代の虚無に相応しいのではないかと思えましたね。
なので個人的な新時代の虚無感は、自由を求めた結果、人となるべく関わらない依存性の高い若者の多さから来るものなのではないかと思います。
ネットワーク・SNS上でしか生きていない人が多く、それ故の、虚無感とか。
でも全体的に楽しめたような気もしますから、また著者さんの別作品も機会があれば読んでみたいですね。
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