あらすじ
アメリカ人の父と日本人の母のもとへ、養子としてやってきたアイ。 内戦、テロ、地震、貧困……世界には悲しいニュースがあふれている。 なのに、自分は恵まれた生活を送っている。 そのことを思うと、アイはなんだか苦しくなるが、どうしたらいいかわからない。 けれど、やがてアイは、親友と出会い、愛する人と家族になり、ひとりの女性として自らの手で扉を開ける―― たとえ理解できなくても、愛することはできる。 世界を変えられないとしても、想うことはできる。 西加奈子の渾身の叫びに、深く心を揺さぶられる長編小説。
(ポプラ社より)
感想・レビュー
第十四回本屋大賞【2017年】第7位ノミネート
西加奈子さんは初めて読みます。
ずっと前から『サラバ!』とか『さくら』など、個人的に読みたかったんですけど、中々縁がなくて、この機会にようやく一冊読めてよかったです。
まず読了後の所感としては、まず素直に面白かったですね。序盤終わりくらいから、一気に読んでしまう程には、この世界観にのめり込めたかなと思います。
そしてただ面白いだけではなく、読了後もすごく考えさせられる力強い作品でもありました。
それくらい世界情勢、自己と世界、ジェンダー、友情、愛情、養子、不妊…などが連動して描かれていて、すごい器用だなと思いました。
さて物語の主人公は、アメリカ人の父と日本人の母に養子として引き取られらた主人公の『アイ』。
アイのルーツは、シリアにあり、ただ物心ついた時にはシリアのことは一切知らず。
そんなアイは恵まれた環境で生きる自分に対し、苦しさを覚えながら生きる姿が、幼少期から20代後半までにかけて描かれていました。
アイは小さい頃にニューヨークで過ごし、それ以降は日本で育ちます。
アイはとても内向的な人間で、誰よりも日本人なシリア人でもあり、やはりこの辺りは人種がどうというより、育った環境が人を作るいい例でもあるのかなと思いながら読んでいました。
結局のところ、日本の教育は「考える」という力を奪ってしまう傾向にありますが、それが心地よいと感じていたアイ。この辺りの描写もすごく面白いなぁと思いながら読んでいました。
そんなアイの性格も相まって、数学がとても大好きになっていきます。
ある日の授業で「この世界にアイは存在しません。」という言葉が、アイの中で、ずっと響くようになり、作中でも度々しつこいくらい書かれていました。
そんなアイにも『ミナ』というたった1人の友達とも出会い、将来的には『ユウ』という人と結婚もします。
二人と関係性や描写もしっかりと最後まで描かれていて、その都度、世界情勢が挟まれつつ「この世界にアイは存在しません。」もセットで書かれています。
私は読みながらこの構成に何の意味があるのだろう?と思い、そもそもなぜ『アイ』のルーツにシリアを足したのだろう?と色々と考えましたが、
著者である西さんのルーツにも少し関係があるのかな?という所に落ち着いたのですが、本当のところは最後まで分かりませんでした。
しかしこの設定が、内向的なアイの世界に対して、外の世界が同時に動くことによって、奇妙というか絶妙なバランス感覚を保っている物語だなと思いました。
これはすごく珍しい小説だし、結構難しいことをしているなぁと。それでいて最後まで読ませるストリー性も維持していたのが素直に素晴らしいなと思いました。
いま思い返してもアイの死者の数をノートに記入し続ける姿や、ミナのレズビアンだけど男とセックスしたとか、ユウのデモをする人の姿が撮りたいとか、独特だなぁ。
これが西加奈子という作家の目というか、力なんだなと感心していました。終盤の熱量も新人賞ぐらい暑かったですし、笑)
他にも細かい回収要素だったり、こことここも繋げてくるんだぁといった楽しみ方も出来ました。
最後は又吉直樹さんとの対談も掲載されていて、すごく面白かったです。
『アイ=I』『ミナ=ALL』『ユウ=YOU』という種明かしを知った時、なるほど!と驚きました。
そして作中でも度々描かれていました世界情勢についても。現在(2024年)も残念ながら争いは止むどころか激化しており、日々多くの犠牲者が出ています。
この情勢に対して、作中でも書かれていましたが、人がどう思うのかは本当に人それぞれだと思いますし、育った環境にすごく影響されると思うのです。
その結果が争いであり、しかしこれはホモ・サピエンスが持つ「創作能力」という特性でもあると私は思っているので、そのせいか夢を見てしまいますよね。
一体いつになった争いのない日が来るのだろうか?と。まぁこの辺はSFチックにもなってきますし、じゃあユートピアが成功なのかはわからない。
こうして私も安全圏で適当にブログを書くことが出来ているのは、正直運というか運命でしかない。
正解はなく、誰もが、この莫大な時間の中の一瞬を生きている。アイもその一人で、最後の全ての人に向けて「生まれてきてくれてありがとう」という言葉は、すごく当たり前で、当たり前ではない言葉だなと改めて考えさせられました。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。