あらすじ
私はたぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、淋しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだから――。濃密な恋がそこなわれていく悲しみを描く表題作のほか、17歳のほろ苦い初デートの思い出を綴った「じゃこじゃこのビスケット」など全12篇。号泣するほどの悲しみが不意におとずれても、きっと大丈夫、切り抜けられる……。そう囁いてくれる直木賞受賞短篇集。
(新潮社より)
感想・レビュー
第130回直木三十五賞受賞作
130回といえば、同じく直木賞を受賞した京極夏彦さんがいて、対する芥川賞には綿矢りささんと金原ひとみさんがいる華やかな回でありますね。
さて、江國香織さんははじめて読みます。
本作は12の短編が収録された短編集ですね。
タイトルが如何にも泣けそうな感じなので最初に書いておきますと、短編内容はほぼどれも恋愛か、そっちに近い内容ばかりです。
あとおそらく泣けはしない、少なくとも私的にはなく要素はなかったと思うので、そのタイトルの理由も後で説明します。
以下、短編タイトル
「前進、もしくは前進のように思われるもの」「じゃこじゃこのビスケット」 「熱帯夜」「煙草配りガール」「溝」「こまつま」「洋一も来られればよかったのにね」 「住宅地」「どこでもない場所」「手」「号泣する準備はできていた」「そこなう」
(号泣する準備はできていたより)
という感じで、まず率直に良かった点を上げますと感情や言葉を感覚的に表現するのがとても上手く、自分の言葉で文章や行間を読んでいるなぁと思えましたね。
構成もたぶんこれフィーリングで書いてるんだろうなぁと勝手に思ってますけど、フットワークの軽い文体と言いますか、視点変換も柔軟で、特に違和感という違和感はなく、それも全体の言葉選び(感性)がそうさせているのだと思います。
なので余計に最初、あれこれって芥川やっけと文庫裏のあらすじを見直してやっぱり直木賞なので少し変な感じがしましたね。
というのもですね、掌編に近い頁数の短編も結構ありまして、言ってしまえば直木賞にまず必要とされているストーリー性が薄いものが多いんですよね。
またこれが難しいんですけど、薄い、弱いというよりは、今から面白くなりそうだなぁというところで終わる、みたいなぶつ切り感があって。
うーん、短編集だしなぁ、でおまけに全編出てくる登場人物は違うので、やっぱり薄いという結果になるかしら……笑)
それでも個人的にどれもそれなりに楽しく読めた気はしていましてその中でも「こまつま」は特に良かったですね。
この話は要約するとプライドの高い主婦のデパートでの行動と心情なんですけど、ついつい笑ってしまいました。よく書けてますねぇ。笑
まとめ
あ、でタイトルなんですけど「号泣する準備はできていた」っていうのは、読んだ人にだけ分かるようになっていて、出てきた殆どの短編に通づる感情なんだと思います。
江國さんはあとがきでも書いてますが、人はとっさにそうするのではなく、何かしら号泣する準備はしていた、言い方を少し変えれば(無意識か意識的にか予測していた)からあの行動なのではないかと。
なるほど。それは確かに、言われてみればそうかもしれません。人は突然のことに涙はこぼしませんし、本当に驚いたときは、思考が停止しますしね。やはり涙を零す時というのは、脳がある程度予測出来る範囲内になれば可能なことなのかもしれませんね。
うむ、ますますどうして直木賞なのだ?笑)
まぁ同授賞の京極夏彦さんの直木賞は読んでませんが、明らかにあの方の作品は他の作家にない、活字の魅力的な病みつきになる重厚さがあると思いますし、物語性をとってもこの短編集はおそらく遠くにおいていかれるし、ますますわからない。笑
まぁ芥川賞に派手な二人がいますしねぇ、負けじと直木賞も頑張らなくてはとなったのでしょうか。
感性的な才能はあると思いますし、いや、でも直木かなぁ〜?笑
まぁ今日はおわります、お疲れ様でした。
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